「名作」と聞くと、どこか難しそうで身構えてしまうことはありませんか?
『羅生門』や『坊っちゃん』といった小説だけでなく、
『桃太郎』や『竹取物語』のような昔話、さらには日本各地に伝わる逸話の数々。
これらは、教科書や昔話集で目にしたことがあっても、
内容がなかなか頭に入ってこない、そんな経験を持つ人も多いのではないでしょうか。
それもそのはず。
これらの作品が生まれた背景には、今とは異なる時代の価値観や表現、
独特の暮らしぶりが色濃く反映されているからです。
なんとなく意味は分かっても、
登場人物の行動や物語の展開に現代とは違う違和感を覚えることもあるでしょう。
そこで、このブログでは「過去の名作を令和風に変えてみた」と題し、
名作の数々を現代に置き換えて紹介していきます。
小説、昔話、逸話──それぞれの物語を、
現代の若者や家族、日常生活を舞台にしながら、新しい視点で楽しんでみませんか?
名作が持つテーマの普遍性は、いつの時代も色あせることがありません。
令和の時代に響く新たな形で、
名作の奥深さと楽しさを一緒に再発見していきましょう!
羅生門 あらすじ(原作)
羅生門(京都の荒れ果てた城門)で、一人の下人が雨宿りをしていた。職を失い、飢えに苦しむ彼は、生きる術を見つけられず、絶望の中にいた。ふと楼上に灯りを見つけた彼は、好奇心に駆られて階段を登る。
そこには老婆が屍から髪を抜いている姿があった。驚く下人に対し、老婆は「この髪を鬘にして売らなければ生きていけない」と語る。下人が非難すると、老婆は「この死体も盗みや悪事を働いて生きていた」と言い返し、自らの行動を正当化した。
老婆の言葉に揺さぶられた下人は「生きるためには手段を選ばなくてもいい」と悟り、突如老婆を突き飛ばして彼女の持ち物を奪い去る。そして、羅生門を後にする彼の心には、罪悪感よりも生き延びるための冷たい決意が残っていた。
【改札の門】 令和版:羅生門
山田亮は、仕事帰りの満員電車で吊革に掴まりながら、体の重さに耐えていた。朝から続いた立ち仕事、上司からの厳しい叱責、未解決のタスク。疲労はピークに達していた。
「座りたい……せめて少しでも楽になりたい。」
次の駅で誰かが降りれば、その席を取るつもりだった。目の前には埋まった座席が並び、どの乗客も降りる気配はない。
譲られた席の横取り
次の駅で、派手な帽子をかぶった高齢者の集団が乗り込んできた。楽しげな声を上げながら、土産袋や旅行カバンを手にしている。その中に小柄な老婆がいた。杖を突きながら、少し息を切らしている。
亮は目をそらした。
「もし席が空いても俺が絶対に座る。ここは普通の座席だし、高齢者優先座席じゃない。」
そう心の中で繰り返しながら、座席が空く瞬間を待っていた。
次の瞬間、老婆が立っている1mくらい先に座っていた中年の男性が無言で立ち上がった。老婆に向かって軽く会釈し、その席を譲る意図を示した。
「どうぞ」と声をかけられたわけではなかったが、老婆はゆっくりとその席に向かった。その姿を見た亮の中で、何かが弾けた。
「早い者勝ちだ。優先座席じゃないんだから、俺が座っても問題ない。」
亮は老婆が座るよりも一瞬早く、その席に滑り込んだ。
老婆は驚いたように立ち止まり、杖を握りしめながら亮を見下ろしていた。周囲の視線が一瞬こちらに集まるのを感じたが、亮は目を逸らして心の中で言い訳を続けた。
「ここは普通の座席だ。ルール違反なんかじゃない。疲れてるのは俺も同じだし、遊び帰りの人より仕事帰りの俺が座るほうが正当だろう。」
老婆は小さくため息をつき、杖を突き直した。その様子を見た隣の高齢者仲間が声をかける。
「おばあちゃん、こっちが空いたから座りなよ。」
老婆は「ありがとう」と微笑みながらそちらに腰を下ろしたが、どことなく申し訳なさそうな表情をしていた。隣の老人に小さな声で漏らした言葉が、亮の耳に届く。
「若い人たちも疲れてるのよね。私たちが遊び帰りなのに、譲ってなんて言えないわ。」
亮はその言葉に胸を締め付けられた。老婆の口から出たその優しさが、かえって自分の行動を浮き彫りにしたように感じられた。
善悪の自問
次の駅で亮は席を立ち、改札に向かった。だが、心の中で問いは続いていた。
「俺は間違っていたのか?でも、普通の座席なんだから、譲る必要はないはずだ。それに俺も疲れてる。だけど……」
頭の中で堂々巡りする自問に答えは出なかった。改札を通ろうとしたとき、ピンポーンと甲高い音が鳴った。
「残高が足りません」
改札の門はまるで彼の心の迷いを象徴するように、彼を拒む。
「……ほんと、俺ダメだな。」
亮は自嘲気味に笑いながらチャージ機へ向かった。数百円の代価を払って改札を通り抜けるその行為が、彼に何かを教えているような気がした。
湿った夜風が吹き付ける中、亮は駅を出た。善悪の基準が揺らいだまま、彼の中で答えは見つからなかった。
街灯がぼんやりと照らす中、亮は迷いを断ち切るように静かに足を踏み出した。
改札の門とは
令和版『羅生門』【改札の門】は、現代の電車内を舞台に、善悪の揺らぎや倫理観の葛藤を描いた物語です。
本質
原作『羅生門』が生死の境界で揺れる倫理観を描いたように、令和版では「電車内での席の横取り」という日常的な選択を通じて善悪の曖昧さを問います。
テーマ
主人公山田亮は、「普通の座席だから譲る必要はない」と自分を正当化しますが、杖をついた老婆への後ろめたさや周囲の視線に葛藤します。この物語は、善悪が状況や視点によって揺れ動く様子を映し出しています。
問い
- 善悪は誰が決めるのか?
- 疲れた自分を優先するのは間違いか?
- 他人を思いやれなかったとき、どう向き合うべきか?
令和版『羅生門』は、私たちの善悪の揺らぎを鋭く浮き彫りにする物語です。
人間の本性は、善悪の境界で揺らぎ続ける。令和の羅生門は、そんな私たち自身を映した物語です。
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