ふと窓の外を見たり、空を眺めたり、海を見つめたり、太陽を浴びたり。
そんな瞬間に、私たちは時々物思いに耽ることがありますよね。
こうした感情を「黄昏る（たそがれる）」と表現することがあります。
「何してるの？」と聞かれて、「ちょっと黄昏てた」なんて、
ちょっとカッコつけた返答をしたことがある方もいるのではないでしょうか。
実際、みなさんもそんな経験があるかもしれません。
黄昏（たそがれ）の由来
「黄昏」という言葉には、もう一つの意味があります。
「誰そ彼は（たそかれは）」が語源で、これは「彼は誰だ？」という意味です。
黄昏は「コウコン」とも読み、日が暮れて薄暗くなる夕方を指します。
昔、人々は薄暗くなって他人の顔がはっきりと見えなくなると、
「誰そ彼は？」（今でいう「誰や、君は？」）と尋ねていたことが、この言葉の由来です。
そうして「誰(た)そ彼(かれ)は」と「コウコン」が一緒になって、
「黄昏（たそがれ）」という言葉が生まれたのです。
子供の頃、夕方まで遊んでいると、少しずつ日が沈み、
友達の顔がわからなくなることがありましたね。
まさに「誰そ彼は」の瞬間でした。
缶蹴りをしているときも、友達の顔が暗くてわからず、
名前を呼ばずに蹴られてしまったことがありました。
今思うと、ちょっと反則だったかもしれませんね。
「かわたれどき」とは
実は、この「誰そ彼は」の反対にあたる時間帯があります。
それは、明け方です。
朝の薄暗い時間帯を「彼は誰時（かわたれどき）」と呼びます。
「彼（か）は誰（たれ）時？」という意味で、
夕方と同じく、顔が見分けにくい時間を指します。
「かわたれどき」は、早朝のほとんどの人がまだ眠っている時間帯です。
僕もつい最近まではその時間には寝ていましたが、
今は早寝早起きを心がけ、5時20分に起きるようにしています。
今の5時20分はまだ真っ暗ですが、少しずつ黒から紫へと空が変わり始め、
「かわたれどき」の光景が広がります。
冷たい空気が肌を突き刺し、眠気を覚ましてくれます。
ぼんやりと、何も考えずにその空を眺めるのが好きです。
色彩心理学によれば、紫は感情の安定をもたらしながらも、
哀愁や切なさを引き出す色だと言われています。
だからでしょうか、僕はその空を見ていると、ふと昔の恋愛を思い出すことがあります。
未練や後悔はありませんが、良い思い出として今でも心に残っています。
「かわたれどき」は万葉集にも登場
「かわたれどき」という言葉は、日常生活ではほとんど使われないかもしれませんが、
実は日本最古の和歌集『万葉集』にも登場します。
その歌がこちらです。
あかときのかわたれ時に島蔭（しまかぎ）を
漕ぎにし舟のたづき知らずも
現代語にすると、
まだ薄暗い夜明け前に島の影から出発していった舟が、
今どうしているのか分からない
という意味です。
この歌は、防人歌（さきもりのうた）とされており、
兵士たちが故郷や家族に対する想いを詠んだ歌です。
恋と別れの歌
万葉集には多くの恋の歌が詠まれています。
それほど恋愛の歌を詠んでいたのなら、
「かわたれどき」が使われた歌は防人歌でもあり恋の歌だったかもしれません。
というのも、防人歌というのは故郷に家族を残して仕事に行った兵士が
故郷や家族に対しての想いを詠んだ歌です。
いつ家族に会えるのか、いつ故郷に戻れるのか、そんな不安や恐怖を歌にしています。
簡単にいうと別れの歌ですよね。
恋多き時代の別れの歌となると失恋の歌ということも考えられるのではないでしょうか。
まだ薄暗い夜明けの前に
家の影から出ていったあの子は（島の影から船出して去ってしまった船は）
今ごろどうしているかわからない
こうすると完全に失恋の歌ですよね。
あくまでも僕の勝手な解釈ですが、、
先ほども言いましたが、かわたれどきの空を見ると昔の恋愛を思い出します。
今はどこで何をしているか分かりませんが、
かわたれどきの空を綺麗と感じるのは、
きっとあの恋が僕にとって大切な恋だったからだと思います。
「かわたれどき」に詠まれた歌も、
もしかすると防人の歌ではなく、恋の歌だったかもしれません。
まだ薄暗い夜明け前に、あの子が家を出て行ったあの瞬間。
僕には、彼女が泣いていたのか、笑っていたのかも分からなかった…。
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